シンガポール編 第8話【決戦の日にプロ21年目の言葉を】

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シンガポール編 第7話【Sリーグブランディング計画①。河内一馬さんのnote】

決戦の日

2018/10/06。
今日はシンガポールカップ決勝の日。
夜の20時キックオフで、相手はブルネイDPMM FC。
この試合はアルビレックス新潟シンガポールの今シーズン最後の試合であり、
3冠が懸かった試合でもある。
それは僕にとってもこのチームでこの仲間とできる最後の試合になる。
絶対に負けられない戦いだ。
ただ、負けられない理由がもうひとつある。
それは今年でプロ21年目を迎える
野澤洋輔こと洋さんにとっても
アルビレックス新潟シンガポールでの最後の試合になるからだ。

一昨日に洋さんが今シーズンでアルビSを退団することがクラブから発表された。
僕たちはそれを発表された日の朝のリカバリー時のプールで聞かされた。
まさか決勝前のこのタイミングでの発表とは
想像していなかったため、
突然のことで少し驚きであった。
洋さんは今年で39歳になる。
しかし、そんな年齢を感じさせないほどのパフォーマンスを毎試合見せてくれるし、
23歳以下しかいないこのチームを引っ張ってくれる。
ピッチ外でもこれだけ歳が離れているのに全くその年齢差を感じさせないほど、
僕たちと一緒にバカをしたり、はしゃいだり、同じ携帯ゲームをしたりと
チームメイト全員と仲良く接してくれる。
しかも、僕の目からはそれはそうしようと思ってそうしているのではなく、
心の底から純粋に楽しんでいるように見えるのである。
それがどうかわからないが。

いつもニコニコしてて、いつもその瞬間を楽しんでいて、
それはピッチの上でも外でも。
だから、僕たちも気を遣うことなく、これは言い過ぎかもしれないが、
まるで歳の近い友達のようにこの1年間接することができた。
そんな洋さんからはこの1年間で本当に多くことをお教えてもらった。
特にサッカーを職業にするということはどいうことなのかについては。
僕はどれだけ幸せ者なのか。
プロ1年目で洋さんと出会えて、そして共にプレーすることができて。
サッカー人生においてもっと経験を積んだ後でなければ
知ることができなかったはずの多くのことをこんなにも早く知ることができて。
そして、洋さんからの1番の教えはシンガポールカップ準決勝の前日に
一緒にお昼を食べた時に話した内容である。
それをこれからあなたにも一緒に共有したいと思う。

GKを極めた洋さん

洋さんは現在38歳で今年の11月に39歳を迎える。
しかし、そんな大ベテランの洋さんも
プロ16年目、つまり34歳にして
常に自分の100を出せるようになった
と言う。

それを洋さんは「GKを極めた」という言葉でも表現していた。
サッカー選手なら誰しも自分の持っているすべての力を出したいはず。
けど、その持っている100の力を出せない選手が多いのではないだろうか?
例えば、洋さんはそれをこんな風に表現してくれた。

練習で10本シュートを受けて、
3本はミスで決められてしまい、
7本は止めれる力を俺が持っていたとする。
昔の俺は
そのミスで決められてしまう3本が試合に出ていた。

練習ではできるのに試合になるとできなかった。
けど今の俺は、
止めれる7本を常に試合で出せるようになった。

つまり、
練習でできていることを試合でも出来るようになったっていうこと。

これが洋さんのいう「GKを極めた」ということである。
じゃあ洋さんはどうやって自分の100を常に出せるようになり、
GKを極めることができたのか?

試合前の心

洋さんは「全てはこいつのおかげだよ」
とスマホのロック画面を僕に見せながらそう言った。
そこに写っていたのは洋さんの息子のシュウセイ君。
洋さん「なんでかわかるか?」
僕「守るものができたから?」
洋さん「違う」
僕「カッコいいところを見せたい。ダサい姿を見せられない。」
洋さん「違う」
僕「試合に負けようが、ミスしてみんなに責められようが、
シュウセイ君は常に洋さんの味方でいてくれるから」

洋さん「違う」
僕「洋さん、わかんないです笑」
洋さん「知りたいか?」
僕「はい。教えてください笑」
洋さん「いいか、赤ちゃんっていうのはな、夜3時間起きに泣くんんだよ。」
僕「はい。」
僕は一言目の洋さんのその言葉にはポカンとなったが、
聞いていくうちになるほどとなった。
洋さん「てことは、夜中に起きてシュウセイをあやすだろ?
それが、毎日続くんだよ?
試合の日だけじゃなく、毎日だから練習のある日も。
それは少なからず、体に影響は出てるかもしれないわな。
けど、そんなの言い訳にしてもしょーがないじゃん俺って思ったんだよね。
俺のコンディションが悪かろうと良かろうと試合は練習はやってくるから
やるしかないんだよ。
あー昨日寝れなかったから、今日の練習調子悪いな。
違う。
あー昼寝しすぎたから、今日の試合でミスばっかりだったんだ。
違う。
調子が悪い、ミスをするのは自分が下手なだけ。
なのに勝手に自分で不安を作り出してる。
必要もない不安を。
その不安が自分の100の力を出すことの邪魔をしているとも知らず。
大丈夫。
試合の前日に寝れなかろうが、
食べるべきものを食べれなかろうが。

俺がいつも思うのは、
今から試合ですって言われたときに
はいできます。っていう気持ちを作れるかどうか。
できるってことはどんな状況であろうが、
今の自分を受け入れられているっていうことだから。
つまり、何が言いたいかというと
どんな状況であろうと、今の自分の状況を受け入れろ
ってこと。

これができないと、絶対にいいプレーなんかできない。」

なるほどと思った。
この洋さんの話を聞いていてルーティンについて考えた。
ルーティン。
とても大切なことだ。

決められた流れを作って、
自分の100を出せる状態に持っていく。

僕も試合前は
まず足裏をほぐし、
次に上半身の可動域を出し、
股関節と膝関節の可動域を出し、
ハムとケツに刺激を与え、ストレッチをし、
腹部に刺激を与える体幹をして、
アップへと向かうルーティンがある。
他にもアップ30分前にBCAAを飲んで、
脂肪をエネルギーに変換するためにカルニチンを飲んでなど。
色々と行うルーティンがある。
けど、その流れが何かのアクシデントやハプニングでできなかったとき、
崩れた時の自分の心の持ち方が大切だと
洋さんの言葉から僕はそう受け取った。

その心の持ち方次第では自分をプラスの方へと導いていたルーティンが、
「あれをしなかったから、今日はダメかもしれない」という不安に変わり、
マイナスな方に作用するものへと変わるからである。
シンガポールではルーティンが崩れる要素など山ほどある。

例えば、
試合開始前にスコールと雷で試合が2時間遅延するのなんて当たり前。

試合会場までの移動で道が混んでて、
いつも通りの時間につかないの当たり前。

食事の面でもそう。
アウェイのブルネイ戦は試合前日の夕食は
そこで出されるものを食べなければならない。

こんなことがしょっちゅう起こるシンガポールで
ルーティンが崩れる度に

自分で勝手に不安を作り出してしまっては、
洋さんのいう通り100の力は出せない。


この話で勘違いしていけないのは、

ルーティンをやめろということや
適当なことをやってもいいということではない。

自分に良いと思ったこと、
すべきだと思ったことはやったほうがいいと思うし、

探してやり続けるべきだと思う。
ただ、それができなかったときに、
それを自分を陥し入れる不安材料にしてはいけないということである。
また、洋さんとのこの会話の中で
そもそもルーティンという言葉自体が
自分を不安にさせているのではないと思った。


ルーティンというと、
もう自分の中で決まったマックスの状態へ持っていくという考え方の為、
なにかができなかったらマックスから落ちるという減点法のような考え方になる。

しかし、
今の自分の状態がもうすでにマックスの状態だという風に考えて、

そこに自分に必要なことを足していくという加点法の考え方をすれば、
洋さんのいう
今の自分を受け入れる
ということにつながるのではないかと思う。

これは本当に自分の体がマックスの状態かどうかは別として、
自分の心がマックスかどうかの話
である。

これで自分の100を出せる試合前の心の状態を作れた。
では次に、試合中の心はどうするのか?

試合中の心

今の自分の状況を受け入れることができて、
試合に臨めようになったら、

次は試合中の心の持ち方が大切になる。

その時に大切なのが、
「余裕を持つこと」

「ミスを取り返そうとしないこと」

と洋さんは会話の中で何度も言っていた。

「余裕を持つこと」
余裕は良いプレーを生む。
なぜなら、
余裕があるということは楽しめてるってことだから。

楽しめてるってことは
自信を持って自分からプレーして、

その一瞬一瞬にのめり込んで、
没頭している状態であるから、

自然と良いプレーができる。
けど、
余裕を持ってプレーすることが
良いプレーを生むことはみんなわかっているけど、
それができない。
なぜか?

それは、
「余裕を持つこと」

「ゆっくりプレーする」や「リラックスして体の力を抜いてプレーする」
というふうに履き違えやすいからである。

プレーは速くしないといけないし、力も入れなければ体も動かない。
そこを履き違えたままプレーをするから、
ミスをしてしまった時に

もっと緊張感を持ってプレーしないといけないと考えてしまい、
その緊張が度を超えて過緊張になり、体を固くさせ、頭を固くさせ、
結果、余裕を持つことが自分の中で悪となり、良いプレーができなくなる。

これが余裕を持ってプレーできないジレンマの正体である。
そのため、余裕を持ってプレーするということは
その一瞬一瞬にのめり込んで
サッカーを楽しむことだということを
理解することが
自分の100を出せることにつながるのである。

じゃあ、
その余裕を持つことの意味を理解してプレーできたとする。

しかし、
サッカーは「ミスのスポーツ」であるとも言われるように、

ミスは必ず起きる。
洋さんも試合前は
「俺よりも上手な選手であるブッフォンだってミスをするんだから、
俺だってミスをする。だから、ミスは当たり前。」
という風に自分に言い聞かせて試合に臨むこともあるそうだ。
その必ず起きるミスを自分の心の中で
どう上手く
処理できるかが大事になる。

洋さんはミスをした時は
「ミスを取り返そうとしない」
ことが大切だと言う。
誰しもミスしたら、
そのミスを取り返そうともっといいプレーをしようとする。
たしかにその心意気は大切である。
しかし、
そのミスを取り返そうという心意気は

自分の持っている力以上のプレーを引き出してくれることはないということを
ミスをした時には理解しておかなければならない。
その理解がないともっと自分はできるのにという心が余計に自分を焦らせて、
普段しないようなプレーをしようとして、
またミスをするという負のループにハマるからであるから。

そのため、
ミスをした時は今の自分はここまでの力しか持ってないんだ
ということを理解して今の自分にできることを
完璧にするということがミスをした時の心の解である。

これが洋さんのいう
「ミスを取り返そうとしない」
の言葉の真意である。

自分にやれることを完璧にやり、できることをやる。
それはすなわち、「仲間を信頼する」
ということにもつながる。

自分のできないことを仲間に託すということだから。
だから、
仲間を信じることは大切なのだ。

大丈夫。
自分がミスしても、仲間がそのミス取り返してくれる。
そのかわり、
仲間がミスをしたら、そのミスを仲間に取らせるんじゃなくて

自分が取り返す。
チームとはそういうもの。
仲間を信じるとはそういうこと。
洋さんとの会話で、洋さんは直接言葉にはしていなかったが、
そういうことも伝えたかったんだと思った。

最後に

「常に自分の100を出せるようにする」
には

試合前の心として
「今の自分を受け入れてどんな状況でもやる」
という気持ちを持ち、
試合中の心として
「余裕を持ってプレーすること」

それでもミスをした時に
「ミスを取り返そうとしない」
ことが大切だということを
洋さんは僕に準決勝の前日に教えてくれた。

そして、
洋さんはそれを翌日の準決勝で示して見せくれた。

言葉だけでなく、プレーという行動で。
試合後。
ロッカーを出て行く洋さんは僕に
「これが仕事だよ」
と言って、後にした。
サッカーを職にするということはどういうことかを学んだ瞬間だった。

今夜行われる決勝。
決勝だからといって、
何も特別なことなどしなくていいし、
何も不安になることなんかない。
いつも通り、今まで通りのことをするだけ。
そうはいっても決勝というものは勝手に心を緊張させる。
そんな時はこれらの洋さんの教えを思い出そう。
今の自分を受け入れて、今の自分にできることをやる。
そして、心の底からその瞬間を楽しむ。
そうすれば自ずと結果もついてくる。

アルビレックス新潟シンガポールでの最後の試合。
最高の仲間と最高の景色を一緒に見るために、
全てをだそう。

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